世界への扉|国際協力ブログ

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国際免許が使えない海外の国での運転免許取得の苦労話ースーダン編

海外で車を運転したいとき、一般的には「国際免許」を取るということが思いつくはずだ。

でも、国際協力を仕事にしていると、アメリカやヨーロッパみたいな華々しい国へ行くことが多いわけでもないので、国際免許が使えない国で生活することが多々ある。

スーダンもそのうちの一つだ。

今日は、スーダンでの運転免許取得のエピソードを紹介しようと思う。

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第一の壁

「パスポートの翻訳を持ってこい」

「???」

皆さんはこの意味が分かるだろうか。僕は分からない。パスポートの翻訳なんて言葉の組み合わせは一生聞くことがないと思っていた。身分証明のためのパスポートって世界共通じゃなかったの?

彼の言い分はこうだ。

スーダンアラビア語の国だ。英語で書いてあっても分からない。アラビア語に翻訳して来い」

うん、だめだ。だって、スーダン公用語はたしかにアラビア語だけど、英語もちゃんと公用語になってるもん。

しかしこの最初の書類を揃えるところが済まなければ、次のプロセスへ進めないので、渋々彼の指示に従うことにする。どうやらハルツーム大学へ行くと翻訳証明書付きでもらえるとのことなので、早速向かうことに。

 

「あの…パスポートの、翻訳?を、お願いしたいのですが・・・」

「わかりました」

いや、あっさりしすぎだろう。なにこの慣れてます感。そんなにパスポートの翻訳ってメジャーな手続きなの?

とはいえこちらは、あっさり「アラビア語に翻訳されたパスポート」と「翻訳証明書」をもらうことができた。ちなみに「あっさり」とは言ったが、これらの書類をもらうために約2週間ほど時は経っているし、何度も何度も電話したり出向いたりして催促はしたが、それでもスーダンでは「あっさり」と言っていいだろう。

 

第二の壁

続いては「筆記試験」である。

通常は教習所に通うのであるが、「日本人」ということで免除となり、いきなり筆記試験を受けられるというシード権をいただいた。

ちなみに「教習所」と言ったが、日本のように建物や練習コースがあるわけではなく、その辺の道にある空き地を教習所に見立て、コーンを置いただけの超簡素な場所でスーダン人は訓練を積む。

 

筆記試験会場に着いた。

試験官1人。受験者1人。

スーダンでは筆記試験の時間は決まっておらず、会場へ行って先ほど揃えたような書類を提出し、「受けます」と申告すれば、そのとき居合わせた人を集めて試験が実施される。こういうところにスーダンという国の「効率の悪さ」が見て取れるが、個人的にはこういうの嫌いじゃない。

問題数は10問。すべて選択式。8問以上正解で合格となる。

設問はすべてアラビア語で書かれている。僕はアラビア語は簡単な単語程度しか分からないので、辞書か何かを持ち込むことは可能かどうか試験官に尋ねてみた。

すると、「彼女に通訳してもらいなさい」と、ちょうどそのとき一緒に来ていたスーダン人が問題文のアラビア語を英語に通訳することを許可してくれたのだ。

ということで試験会場には、試験官1人。受験者1人。通訳者1人。辞書どころか、「人間の持ち込み」の成功である。

 

早速スーダン人の友人が試験問題を英語に訳していってくれる。

しかし、交通ルールがそもそも日本とは異なるため、もはや勘で答えていくしかない。次第に通訳するのに疲れてきた友人は、もはや自分で問題を解いていく。替え玉受験の完成だ。僕は隣で見守ることしかできない。インシャアッラー

その友人も運転免許は持っているのだが、いかんせんペーパードライバーのため、分からない問題が3つあると言う。このままでは10問中7問までしか正解できず、不合格だ。

「インシャアッラーアラビア語で「神のみぞ知る」的な意味)」と叫びながら、残りの3問は適当に選択して試験を終了。結果は、なんと満点である。

「アルハンドゥリラ(アラビア語で「神に感謝を」的な意味)」と2人で唱えた。

 

第三の壁

さあ、いよいよ「実技試験」だ。

そこでふと疑問が湧いてきた。そもそも「教習所」がないスーダンでは、どこで実技試験を行うのか。

答えはこうだ。

「その辺の道」

知り合いから集めた情報によると、どうやら(だいたい)毎日13時くらいに、あの道のあの辺あたりに立っていると、試験官の人がやってきて試験を実施してくれるらしい。

ということで早速、「あの道のあの辺あたり」に向かう。

 

「あの道のあの辺あたり」に着くと、意外や意外、結構な人が集まって待っている。ざっと30,40人くらいはいるのではないだろうか。筆記試験のときは受験者が1人しかいなかったことを考えると、相当な数だ。しかし、のちにこれだけの人数がいる理由が明らかになることになる。

実技試験の内容はこうだ。

「30m直進。その間に、ギアをサードまであげる」

短い。というか、そもそもその距離の間にギアをサードまで上げるのは至難の業すぎる。(補足ですが、スーダンでの運転免許は基本的にマニュアルです)

「何年使えばこうなるんだろう」というくらいボロボロの教習車がやってきた。ついに、試験が始まった。

エンスト。エンスト。エンスト…エンスト…エンスト…。

みんな30mの間にギアをサードまで上げようと、急いでギア変速を行うため、エンストの嵐。ここまで全員不合格。なるほど、道理で受験者が多いと思ったら、みんな再試験なのね。

 

さあ、次は僕の番だ。

窓の付いていない開放感マックスの車に乗り込む。シートベルトを付けようとすると、「時間がもったいないからそのままでいい」と試験官から告げられる。こういうところは「効率が良い」のがスーダンだ。

エンジンをかける。発進。だがしかし、こちらには30mの猶予しかないのだ。できる限り早くギアを上げたい。クラッチを踏む。踏み込んだ。

「バンッ!!!」

強烈な爆発音とともに、教習車が壊れた。原因は分からない。いや、まあ、明らかにボロボロだったけど、まさか僕の番で壊れますかね。

「何してるんだ!早く降りろ!」

試験官にめっちゃ怒鳴られながら、運転席のドアを開けて出ようとする。

「ドンッ」

ドアノブが外れた。

以上、スーダンでの運転免許取得エピソード、改め、「吉本新喜劇 イン スーダン」でした。すべて、実話です。