こんにちは!田才諒哉(@ryoryoryoooooya)です。
よく国際協力の仕事は、「ジェネラリスト」と「スペシャリスト」に分けて語られます。
スペシャリストは、医療や教育、建築に関する専門性を持っているなどイメージがつきやすいのですが、「ジェネラリスト」とは、ぶっちゃけどんな人を指すのでしょうか?
国際協力の仕事のジェネラリストとは?
ジェネラリストの解釈は、組織や人によって異なると思います。
ぼくが考えるジェネラリストのプロとは、「どんな分野、どんな地域の開発プロジェクトに入っても、多角的かつ包括的なアプローチで、的確にプロジェクトを前に推し進めることのできる人」です。
よく国際協力の仕事は専門性が必要だと言われますし、もちろん専門性はあった方がいいと思います。
一方で、特定の分野のスペシャリストだけの集まりではカバーしきれない部分もあると思っていて、そこを埋める役割がジェネラリストの仕事だと思っています。
ジェネラリストに必要な3つの視点
ここからは、ジェネラリストに必要な3つの要素を書いていきたいと思います。
1. プロジェクトにおけるパワーの把握
参加型開発の手法の一つとして、Gaventa(2005)によって提唱された「パワーキューブ(power cube)」という分析ツールがあります。
簡単に説明すると、開発プロジェクトにおける、アクター間、さらにはアクター内の力関係を把握し、パワーによる制約をどう乗り越えていくかを分析するツールです。
実は、開発プロジェクトが失敗する理由の一つとして、この「パワーリレーションの把握不足」があげられます。
バングラデシュの事例を取り上げましょう。
1995年から実施された「Bangladesh Integrated Nutrition Project(BINP)」では、子どものいる母親に対して、栄養に関するカウンセリングプログラムを提供しました。
カウンセリングの内容は専門的な知見も動員し、子どもの栄養改善のために十分な内容であったとされ、またカウンセリングには、プロジェクト対象者のうち約90%の母親が参加したそうです。
しかし、プロジェクトは上手くいきませんでした。
バングラデシュの栄養プロジェクトで、母親に子どもの栄養に関する知識を提供し、家庭での実践を試みた。
— 田才諒哉@イギリス留学中🇬🇧 (@ryoryoryoooooya) February 13, 2019
家庭内ジェンダーの関係も考慮して、父親にも栄養改善の大切さを伝えた。
それでも、家庭内で栄養改善のアクションは起こらなかった。
原因はしゅうとめが伝統的慣習に従うことを望んだため。
家庭内の力関係を把握することは、支援の際に重要で、男性が家計や意思決定権を握っていることが多い。
— 田才諒哉@イギリス留学中🇬🇧 (@ryoryoryoooooya) February 13, 2019
同時に、しゅうとめ(mother-in-law)のパワーも絶大で、母親との力関係(世代間の認識の違いも含めた)を把握することも大切。
というか日本でもあることだし、意外とどの国でも当てはまる。
このプロジェクトが失敗したのは、家庭内の母親としゅうとめ(mother-in-law)のパワーリレーション(Gaventaが提唱する"invisible power")を把握できていなかったことに起因します。
このように、開発プロジェクトの中には、表には見えない「力関係」がたくさん存在します。
NGOが政府の制約の中で自由なアクティビティができないことも、日本にいるドナーが途上国でのプロジェクト内容に制約を設けていることも、Gaventaが提唱する力関係の一つです。
つまり、いくらスペシャリストがどれだけ技術的に完璧な仕事をしたとしても、実際の現場はぐちゃぐちゃと複雑で、ときには私利私欲や国益という、いっけん表には現れない「見えない力」を観察した上で、プロジェクトの実施を考える必要があり、このパワーリレーションを分析する力が、ジェネラリストに必要な要素だと思っています。
GaventaのPower Cubeについて詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。
2. バイアスの排除と社会的弱者をだれ一人取り残さない観察眼
開発学のレジェンド、ロバート・チェンバース(2008)は、7つのバイアスが国際協力の現場にあると主張しています。
- Spatial Bias(空間バイアス)
- Project Bias(プロジェクトバイアス)
- Person Bias(人間バイアス)
- Seasonal Bias(季節バイアス)
- Diplomatic Bias(外交バイアス)
- Professional Bias(専門職のバイアス)
- Security Bias(セキュリティバイアス)
そしてこの7つのバイアスの中でも、「Seasonal Bias」は特に忘れ去られているとチェンバースは強調します。
そのほかのバイアスについて詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。
ラマダン(断食月)の1ヶ月はプロジェクトがほとんど進みません。
フィールドへモニタリングに行くためには、スーダン政府の許可が必ず必要なのですが、ラマダンを理由にその許可がなかなか下りませんでした。
(余談ですが、この時期のスーダン人の口癖は「Because of Ramadan」です。この言葉を言っておけば、遅刻しても仕事をしなくても何でも許されるという最強の一言)
でも本来、日中は食べ物も飲み物も摂取しないこの時期こそモニタリングされるべきであり、こうした観測されない期間をそもそも作らないプロジェクト設計をジェネラリストはしていかなければいけません。
「行きやすい場所だから」
「カウンターパートの出身地だから」
こうした理由でプロジェクト実施地域を選定することは多いと思います。
現場でのこうした一つひとつの選択には、いつもバイアスが入っていて、完全に排除することはできないものの、バイアスを持っているということを理解したうえで、一歩引いた視点からプロジェクトを観察する力も必要です。
Seasonal Biasについては、英語ですが、以前ぼくが書いた記事があるので、こちらもぜひ併わせて読んでみてください。
また、スペシャリストによる提案のなかに、「取り残されている人がいないかどうかを想像する力」も重要だと思います。
例えば、井戸の建設候補地が3つあったとき、建設のしやすさから建設地を選ぶのではなく、その地域で水汲みの役割を担っている女性や子どもが通える距離にあるのか?特定の民族集団のみがアクセスしやすい場所になっていないか?など、社会的弱者になりやすい人の視点からプロジェクトを観察できる力も必要です。
3. プロジェクトマネジメント力
最後に、「プロジェクトマネジメント力」です。
上記2つの視点を常に忘れないようにしながら、正しい方向にプロジェクトが進んでいるかを、PDM(Project Design Matrix)に照らし合わせながら確認すること。
そして時には、そのPDMを軌道修正していくことが必要になります。(というか、修正せずにプロジェクトを完了できるほど現実はシンプルではないのだ…)
こうした作業をしていくうえでは、国際協力の分野でなくても、民間企業で一つのプロジェクトをチームで達成させる経験を多く積んでいる人ほど、ジェネラリストになる資質があると思いますし、実はこれがしっかりできる人が今一番国際協力の世界で求められている人材な気もします。
ジェネラリストになるための3つの条件を書かせていただきました。
ぼくもまだまだ磨いていかなければいけないものばかりで、日々学びの連続ですが、いつか素晴らしいジェネラリストになれるように努力を続けていきたいと思います!
それでは!チャオ!